物忘れ

「ちょっと、あれどうなってる?」
職場で声がかかる。
誰に対して話しかけてるのかな、と思って顔を上げると、
普段あまり会話を交わさない上の方の上司が自分の方を見ている。


ちょっと=ちょっと○○君(私)


のことだった。
さて、気づいたのは良いものの、
肝心の用件が全く分からない。


あれ=どれ?


中々言葉が出てこないのは分かるが、
謎かけは一つの文章に1回にして欲しい。
何のことかさっぱり分からない。


とっさの判断。サラリーマンとしてなんと答えるか。
「『あれ』というのはどの件でしょう?」
喉元まででかかった言葉をグッと抑える。
ここはジャブだしをしながら『あれ』の正体を探るしかない。


「そうですねぇ。実はご相談しようと思ってまして、、、」
とりあえず言葉を濁す。
「そうか、ちゃんと連絡はしたか?」
まだ会話がつかめない。
「なかなか時間が合わずにどうも、、、」
「だめだろう。ま、そうは言ってもまだひと月はあるからな。」


重要なヒントが出てきた。
あとひと月はある・・・
後もう少しだ。

「○○さん(上司)としてはどのようにお考えですか?」
「う〜ん、やっぱり○○さんは呼ばないわけにはいかないだろうなぁ」


ここで合点。
とあるイベントに関するお客さんとの懇親会の相談だということが分かる。


最後は深々と頭を下げ、ホッと胸をなでおろし、ドッと疲れが出た。