フランケンシュタイン

フランケンシュタイン (角川文庫)

フランケンシュタイン (角川文庫)

おれは自分でもいやな衝動の、主人ではなく奴隷だった、しかもそれにそむくことは出来なかった。

1818年メアリー・シェリー21歳の作品。
作者は18歳の時に友人らと4人で集まり、何か恐ろしい話を考えよう、といって語り合った話がフランシュタインの
元ネタになったらしい。読んで驚いた。これが21歳で作り上げた作品だなんて信じられない。紛れも無い傑作。


自然科学の天才にして生命を作り出す術を見つけたフランケンシュタインによって作り上げられた人工生命体。
その生命体は作品の中で、ただ「怪物」と呼ばれている。
フランケンシュタインは命を作る作業に熱情を注ぐが、
生命を吹き込んだ瞬間にその姿の余りのおぞましさに慄きその存在を恐れるようになる。
創造主に見捨てられ、言葉も知らず、ただ醜い容姿ゆえに周りから迫害された怪物は、
様々な知識を身につけることによって己の孤独と世の中の不条理に気付き、徐々に人間に対する復讐心を宿していく。

知識とは何という奇妙な性質のものであろう!それは、ひとたび頭を捕らえたならば、岩についた苔のように、頭にこびりついてくる。
私は時々、あらゆる考えと感情を振り捨てたいと思ったが、苦痛感を征服するにはただ一つの手段しかない。それは死である。


巻末の解説に、モンスターという言葉は元々「見せる」という意味であり、語源的にはラテン語で「警告」から派生した
言葉であるそうだ。理性的な神が創造した創造した世界において、
反自然的なおぞましいものは凶事の兆でありつまり、神にそむいた罰とされた、道徳上の言葉だという。
そして、不道徳の中で最も忌まわしい警告(モンスター)は『忘恩』であった。


能弁なモンスターによって、人間社会がえぐられていく。社会小説としても読め、19世紀初頭のヨーロッパを味わえる。


秋の夜長におすすめの作品だ。



余談だが、浦沢直樹の『モンスター』も考えてみれば忘恩の話だ。